元CBSソニーの洋楽ディレクターだった野中規雄さんが、
熊日に「ロックをたしなむ」というエッセイを連載していた。
その中に、チープ・トリックについて書いた回があった。
日本では本国である米国より先に人気に火がついた彼らが、
来日するとき、そのライヴを録音してレコードにしようと企画した。
その『チープ・トリックat武道館』は、日本限定発売だったのに、
米国のラジオで紹介されるや大反響を呼び、
逆輸入され、400万枚の大ヒットになった。
野中さんは書く。
「結果的に私のキャリアの代表作となったのだが、
狙ったわけではない。
『少女たちの喜ぶ顔が見たい、
記念品を作ってあげよう』という思いで制作しただけなのだ」
無欲の勝利というわけではないと思う。
野中さんは音の職人でありたいと願い、
レコード業界という製造業界の端くれで、
そのチャンスをうかがっていたのだ。
"I Want You to Want Me"という曲で、
スタジオ録音ではエコー処理されたヴォーカルのリフに
感極まった少女たちが、コーラスで応えるという情熱の発露。
そういうところが、米国でも人々を惹きつけたのではないだろうか。
メード・イン・ジャパンがライジング・サンだった時代。
クール・ジャパンの原点と言えるのではないか。