そうムーチョだから

イカしたタイトルを思いつくまで。

「おまえ」に

私の長男は、今年10月で23歳になる。
長男が生まれる前、
ひょっとすると、結婚前だったかもしれないが、
金属バット殺人事件という父親殺しの事件があり、
いくら何でも、自分の息子に殺されるなんて、
まっぴらだと思い、
自分の子どもは、自分の絶対的な支配下に置くぞ、
といま思えば、かなり変な理屈から、
子どもを「おまえ」と呼ぼうと決心した。

「おまえ」という二人称との出合いは、
加藤和彦氏の歌う歌詞の中にあった。
作詞の松山猛氏がよく使っていた「おまえ」。
松山氏は、フランスのシャンソンとか、
ソネットに影響を受けていた。
フランス語の二人称には、「チュ」と「ヴ」があって、
より親しい相手に対して使う「チュ」を
「おまえ」としていたのかもしれない。

謡曲においてさえ、
女性に対して、「おまえ」呼ばわりはけしからんと、
そういうことを言う人もいた。
女性蔑視だというわけだ。
しかし、それは相手がどう受け取るかということなので、
男性に「おまえ」と呼ばれて、
ゴロニャンと、イヤ、幸せを感じる女性もいるだろう。

これが、業務上で、
上司が部下を「おまえ」と呼ぶ場合も、
やはり親愛の情を示すことも多いかもしれないが、
公の場で、部外者がそれを聞いたとしたらどうだろう。
上司と部下の親密な関係に良い印象を持つよりも、
「場所をわきまえるべきでは」と
受け止めるのではなかろうか。
あるいは、叱責かと。

振り返って、いまさら
自分の息子を人前だからって、
「きみ」とか言えない。
当然名前では呼ぶのだが、
名前を強調するためには、重ねて二人称を使うのが、
一般的であるし・・・
「ヨウヘイ!おまえは」などと。

ちなみに父は、私のことを君付けで呼んでいた。
父方の祖母は、さんづけで、
母方の祖母は呼び捨て。ときにちゃんづけ。
母はさんづけだ。
どうでもいいことだけれど。