そうムーチョだから

イカしたタイトルを思いつくまで。

「どこでもロズウェル」があるわけではない

 UFOを観光まちづくりの目玉にして活性化しようという、さびれた町の青年クラブの奮闘記。ではあるんだけど、どちらかというと巻き込まれ型のコメディと呼んだ方がふさわしいかもしれない。 
 最初からUFOの町を企画したわけではないが、次々と災厄のように降りかかってくる幸運と中傷の連続。うまく行くときはうまく行くが、つまずけばどこまでも転げ落ちる、かに思われるが、助け舟はまた意外なところから突然にやってくる。 
 何より住民一人ひとりの描きわけがうまいから、町全体が立体的に感じられる。それぞれの演技が光るオールスターキャストといった趣向。実際に芝居をする場面も用意されているし。 
 日本中いたるところに、過疎という現実はある。駒木野町みたいにうまく行くところは少ないだろう。それは一概に住民のせいには出来ない。もともとよそ者の鏑木(こいつは、本当に胡散臭いが、憎めない)や牧場主川崎みたいな人間はいつも前向きだ。背負ってるものがないから。主人公靖夫のように、どうすればいいんだ。他にどうしようがあるのかと悩んでいる人たちの方が多いはずだ。
 この小説は彼らの起死回生の処方箋になるというマニュアルではない。しかし、ちょっと肩の力を抜くことを教えてくれると思う。それは何のためになるのかわからない小説の立派な効用のひとつだろう。 
 本文から「観光とは退屈な人生に、劇場を作り出すことだ。これまでの実人生で脇役や通行人に過ぎなかった人々は、離れた土地でもてなされながら主役を演じる。」  
 
 因みに実際にあるUFOの里 福島県飯野町のHPはこちら

篠田 節子 / 講談社
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過疎の町は救えるのか
5回も読んでしまった
人々の虚心を描いた